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はじまり1

はじまりは、この日だった。

平日の深夜だった。
人影まばらなテラの倉庫前で、私たちはパーティーを組んで話していた。
ヲリさんと、バルさんと、マジの私の三人パーティー。
私たちの関係は、何度かいっしょに狩りをしたことがある知人どうし。レベルやログインする時間が似ていて、何度か顔を合わせるうちに親しくなった。
親しいといっても三人ともクロノスを始めて日が浅かったから、チャットは楽しいながらもどこか気を遣いながらで、狩りの精算を終えたその日も話題は途切れがちになっていた。
日付が替わったころバルさんが切り出した。
「そろそろ落ちるね」
ほどなく
「俺も寝るねー」
ヲリさんのチャットが流れる。
半ば救われたような気持ちで私も落ちますと挨拶した――直後。
「あれ何かな?」
唐突にバルさんが言った。
「何だろうね」
ヲリさんも言う。
2人が何の話をしているのかわからずにいると、ヲリさんがその場をうろうろと歩いた。画面を回転させてヲリさんの動きを追うと、さっきまで三人しかいなかった倉庫前にもうひとりキャラクターがいるのに気がついた。
いつからそこにいたのか、その人は普通のキャラクターの容姿とは異なる何かの姿に変身していて、その格好でアイテムを次から次に地面に置いている。
次々に地面に現れるアイテムは黄色や紫色で表示されていたから、私たちのような初心者にも一目でそれが高価なものだとわかった。
みるみるうちに倉庫前が捨てられたアイテムでいっぱいになっていく。
「何だろうね」
「倉庫整理してるのかな?」
地面に置かれたアイテムは捨てたとみなされて誰かが持っていってしまうこともあるし、時間が経過すれば消えてしまう。だから倉庫整理のために仕方なくアイテムを地面に置くときは、長時間置きっぱなしにならないよう時々拾い上げる場合もあるくらいだ。
プレイヤーがゴミアイテムのNPC売りを面倒がって地面に置いて自然に消えるのを待つのならよくあることだけれど、その人はゴミには見えない高額そうなアイテムを地面に置いたままにして拾い上げるそぶりも見せない。
「変なことしてるね」
バルさんの言うとおり、普通に考えればその人のしていることは変だった。

「捨てちゃうんですか?」
その人に話しかけたのは、ヲリさんだったか、バルさんだったか。
知らない人に話しかけるのだから答えが返ってくるかどうかわからなかったけれど、しばらくして返事があった。

「あげるー」

それを聞いたとたん、あの人は何をしているんだろうと話していたパーティーのチャットがぴたりと止まった。
少しの間。バルさんが聞き返す。
「いいんですか?」
驚いて、半ば疑って、半ば期待して。

「うん」

返事は明快だった。
「わーい」
私たちは喜んだ。パーティーチャットが勢いよく流れる。
「太っ腹!!」
「くれるんだって」
「気前いい人だね」
「くれるって言うんだから、もらおうよ、消えちゃうし」
そんなログを流しながら、めいめいアイテムを拾い集める。
私は運のよさを喜んでいた。
本来なら苦労しなければ手に入らないはずのものを簡単にもらえたことに。その人がアイテムを捨てている場に居合わせたことに。

私たちが嬉々としてアイテムを拾うそばで、アイテムに囲まれたその人は動かない。
声をかけたのは、また、バルさんだった。
「あなたはいらないんですか?」











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はじまり,

はじまり2

返ってきたのは簡単な返事だった。

「うん。クロノスやめるから」

私たちのパーティーチャットは止まった。
クロノスを始めて日の浅い私たちは、アイテムを手に入れて喜んでいる。
けれど、目の前に今まさにクロノスを去ろうとしている人がいて、その人は閑散としたテラでアイテムを捨てている……。
チャットが止まったのはせいぜい十数秒だったし、その時ヲリさんとバルさんが何を考えていたかはわからない。
ただ、その十数秒の間にキャクターが画面を動くことはなかったし、誰かが話題を変えて話し始めることもなかった。

チャットを動かしたのはバルさんだった。
「やめちゃうんですか?;;」
「うんw」
「なんでやめちゃうの;;」
詮索されるのはあまりいい気がしなさそうなものだけれど、その人は特に気分を害した風でもなかった。

「飽きたwww」

バルさんは
「・・・w」
と発言して、それ以上は聞かなかった。
「飽きたんですかw」
ヲリさんがその人の周りを歩く。

「そそwだから勝手に拾ってw」

その人は地面に置かれたアイテムを取るよう私たちに重ねてすすめた。

「どれでも好きなの持ってってwもう必要ないから」

言われて、私たちのパーティーチャットはまた流れ始めた。
「どれを拾えばいいかわからない^^;」
アイテムを拾って、性能を見てはまた拾う。
「いっぱいあるから><」
時々ノーマルチャットで発言して、
「誤爆^^;」
「w」
アイテムを捨てている人とそんなふうにやりとりした。

「君の職はヲリ?」

ノーマルチャットでその人からアクションがあった。
その頃になると、はじめは大きな敵の姿に変身していたその人の変身は解けて、私たちと同じキャラクターの姿に戻っていた。
歩き回るのをやめてヲリさんが答える。
「はい。ヲリやっていこうかなーと思ってますー」

「なら、その××を持っておくといいよ。HPが増えるから」

「???」
何を拾えばいいか決めかねている私たちにその人がアドバイスしてくれているようだというのはわかるけれど、話が見えない。
チャットに?が並ぶ。
「ヲリのことわからない;;」
「はい><」
無責任に言い合っているバルさんと私をよそに、
「ヲリでHPが増えると何かあるんですか?」
直接聞いたのはヲリさんだった。
少し経って、

「HPが増えると●●でやれるしねw」

それまでその人の返事が明快なものばかりだったからか、その言い方は少しあいまいな言い方のように感じた。
――●●って何だろう。
ノーマルチャットに三人三様の『?』が流れる。
その人なら付け足して説明してくれそうなものだけれど、しばらく待ってもその人は●●について話してくれそうにない。
気がつけば、アイテムを捨てる音はいつのまにか聞こえなくなっていた。
「●●って何ですか?」
とうとうヲリさんが聞いた。










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はじまり,

はじまり3

ヲリさんの質問でチャットが止まった。テラのBGMがループする。

「返事ないね。どうしたのかな?」
急に黙ってしまったその人に、私たちは不安になった。
「俺が怒らせたかな^^;」
「怒りはしないでしょw」
ヲリさんとバルさんがパーティーチャットで話している間にログを見直したけれど、私たちがその人を怒らせるようなことを言ったようには見えなかった。
「でも黙ってるし^^;」
「どうしよう~」
深夜だし、このまま返事がなかったらと考え始めた頃、

「・・・君らは新規さん?」

「・・・」の間もそのままに、ログにその人の発言が現れた。






「ごめんねえ」

新規プレイヤーだと思わなかった、サブキャラクターだと思っていた、でも話すうちに「あれ~?」ってなって考えていた、というのがその人の言い分だった。

「怒らせたのかと思った^^;」
「いやいやww」
「質問しまくったからうざかったのかと……」
「ごめんw」

その人は地面のアイテムを指しながら装備やスキルについて私たちに少しずつ説明してくれた。
それによると、その人の話――
『ヲリなら××を持っておくといいよ。HPが増えるから』
『HPが増えると●●でやれる』
は、要するに
"●●というきつい狩場でも××というアイテムを装備していれば死ににくくなって効率よく狩りできる"
という意味だった。

その人は、装備の話、アイテムの話、スキルの話で質問攻めする私たちを「なんとかなるw」の一言で軽く流したけれど、職への質問には様子が違った。

バルさんが聞く。
「バルは何すればいいの?」
「バルは火力だね」
その人は言い切った。
よく見てみれば、敵の姿の変身がとけたその人のアバターは女性。バルだった。
「火力かあ」
「火力ないと話にならない」
「防御は?」
バルさんは突っ込んで聞く。
初めて会う人なのに疑問をどんどん聞けるのはバルさんの強みだ。
「防御は紙。バルはそういうものw」
紙かあ、と言いながらバルさんはアドバイスに頷いている。
「防御あげなきゃいけないのかと思ってた」
「いや、防御上げると火力なくなるから紙でいいんだよ」

バルさんに便乗して私も聞く。
「マジは・・・」
「マジは・・・タゲ取り?w」
「あ、タゲっていうのは敵のターゲットね。敵を集めるって意味w」
オンラインゲームは初めてで、タゲ取りという言葉を聞いたのは初めてだったけれど、意味はなんとなくわかった。
マジは重要ではないということだ。
「転生すればUWで強い」
とも言ってくれたけれど、銀装備では転生のイメージさえわかない。
その人の話が"マジはバルみたいな火力ではないから敵を倒すのに必要とされない"というように聞こえ、私は自分が選んだマジがクロノスで活躍できそうにないのを残念に思った。

「ヲリは?やっぱり火力?」
最後にヲリさんが聞いた。
ヲリさんは強い。タフで敵をどんどんやっつけていく。
3人で狩りをすると、瀕死のバルさんやダメージを与えられない私と比べて明らかに強いので、バルさんも私も「ヲリさん強いね」と言っていたし、ヲリさんもそう言われて喜んでいるように見えた。
バルさんが火力なのだからヲリさんも火力だろうと思っていたし、ヲリさんもヲリは火力という答えを期待していたのではないかと思う。
けれど
「いや」
「え」
その人はそうは言わなかった。
「ヲリは先導」






その人の話によると、先導というのは『効率よく狩るためPTを道案内する役割』のことらしい。

その人は言う。
「『PTより少し先を行くから、ヲリにはHP回復などの支援スキルは届かない』。
『先導ヲリは死ぬ危険があるが、ヲリが死ぬと敵の攻撃力でPTメンバーが死んだり道に迷ったりして効率が落ちる』」
「だからヲリは死んじゃだめ」

バルさんと私はテラをうろうろ歩きながらヲリって大変なんだねと無責任に言い合った。
特に私は自分に関係のない話と決めつけて真面目に聞いていなかった。

「先導って初めて知った・・・ヲリの仕事全然知らなかった^^;」
「ヲリは仕事いっぱいあるよ」
その人は全職キャラを持っていてメインはヲリだと教えてくれた。そして「ヲリが一番面白い」とも。
バルさんと私が遊んでいる横で、ヲリの仕事の話は続く。
いつもは話す時にうろうろ歩き回るヲリさんが、その人の言う『仕事』の内容をじっと立って聞いていた。









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