スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

はじまり1

はじまりは、この日だった。

平日の深夜だった。
人影まばらなテラの倉庫前で、私たちはパーティーを組んで話していた。
ヲリさんと、バルさんと、マジの私の三人パーティー。
私たちの関係は、何度かいっしょに狩りをしたことがある知人どうし。レベルやログインする時間が似ていて、何度か顔を合わせるうちに親しくなった。
親しいといっても三人ともクロノスを始めて日が浅かったから、チャットは楽しいながらもどこか気を遣いながらで、狩りの精算を終えたその日も話題は途切れがちになっていた。
日付が替わったころバルさんが切り出した。
「そろそろ落ちるね」
ほどなく
「俺も寝るねー」
ヲリさんのチャットが流れる。
半ば救われたような気持ちで私も落ちますと挨拶した――直後。
「あれ何かな?」
唐突にバルさんが言った。
「何だろうね」
ヲリさんも言う。
2人が何の話をしているのかわからずにいると、ヲリさんがその場をうろうろと歩いた。画面を回転させてヲリさんの動きを追うと、さっきまで三人しかいなかった倉庫前にもうひとりキャラクターがいるのに気がついた。
いつからそこにいたのか、その人は普通のキャラクターの容姿とは異なる何かの姿に変身していて、その格好でアイテムを次から次に地面に置いている。
次々に地面に現れるアイテムは黄色や紫色で表示されていたから、私たちのような初心者にも一目でそれが高価なものだとわかった。
みるみるうちに倉庫前が捨てられたアイテムでいっぱいになっていく。
「何だろうね」
「倉庫整理してるのかな?」
地面に置かれたアイテムは捨てたとみなされて誰かが持っていってしまうこともあるし、時間が経過すれば消えてしまう。だから倉庫整理のために仕方なくアイテムを地面に置くときは、長時間置きっぱなしにならないよう時々拾い上げる場合もあるくらいだ。
プレイヤーがゴミアイテムのNPC売りを面倒がって地面に置いて自然に消えるのを待つのならよくあることだけれど、その人はゴミには見えない高額そうなアイテムを地面に置いたままにして拾い上げるそぶりも見せない。
「変なことしてるね」
バルさんの言うとおり、普通に考えればその人のしていることは変だった。

「捨てちゃうんですか?」
その人に話しかけたのは、ヲリさんだったか、バルさんだったか。
知らない人に話しかけるのだから答えが返ってくるかどうかわからなかったけれど、しばらくして返事があった。

「あげるー」

それを聞いたとたん、あの人は何をしているんだろうと話していたパーティーのチャットがぴたりと止まった。
少しの間。バルさんが聞き返す。
「いいんですか?」
驚いて、半ば疑って、半ば期待して。

「うん」

返事は明快だった。
「わーい」
私たちは喜んだ。パーティーチャットが勢いよく流れる。
「太っ腹!!」
「くれるんだって」
「気前いい人だね」
「くれるって言うんだから、もらおうよ、消えちゃうし」
そんなログを流しながら、めいめいアイテムを拾い集める。
私は運のよさを喜んでいた。
本来なら苦労しなければ手に入らないはずのものを簡単にもらえたことに。その人がアイテムを捨てている場に居合わせたことに。

私たちが嬉々としてアイテムを拾うそばで、アイテムに囲まれたその人は動かない。
声をかけたのは、また、バルさんだった。
「あなたはいらないんですか?」











次へ>>
スポンサーサイト

ジャンル : オンラインゲーム

テーマ : 眠らない大陸クロノス

はじまり,

| TOP |


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。